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「生命への援助Aid to life(秩序)」

2024年3月

 私たち大人が普段何気なく考える「こどもらしさ」の中に、「秩序を重んじる」ということが挙げられることは、まず無いのではないでしょうか。秩序の面で言えば、子どもは、よく部屋を散らかして、整理整頓が苦手で、物をよく無くしてしまい、持ち物の管理が難しいというイメージが一般的ではないでしょうか。


 しかし、マリア・モンテッソーリは、子どもを長年にわたって科学的に観察する中で、子どもの「真の姿」はむしろ秩序を重んじる存在だと発見したのでした。  まず、1歳ごろから3歳半くらいまでの子どもたちについては、お母さんのお腹から新しい世界に生まれてきて、まだそれほど長い時間が経っていないため、新しい世界で子どもは秩序を頼りに探索をしていきます。「どこに何がある」という空間的な秩序や、「この後にはこれをする・これがある」という時間的な秩序、「ママ・パパは自分を守ってくれる、でもこれをしたら叱られる」という関係性の秩序などです。子どもたちは秩序を頼りに世の中を理解しようとしているため、秩序が乱れると大変な苦しみを感じ、その苦しみは駄々をこねることや泣くことによって表されることが多いのです。子どもを援助するにあたって、大人はこうした秩序についてできる限りを配慮し、一貫性のある態度で、ルーティーンを大切にし、あまり例外を用いず、同じようなスケジュールを維持することで、子どもは安心して安定した日々を過ごしやすくなります。


 また、マリア・モンテッソーリは子どもは自分の中に「内なる教師」を持っているというミステリアスな表現を遺しています。その「内なる教師」がある時期には「はいはいをしなさい」「立ち上がって歩いてごらん」「走りなさい、階段を登ったり降りたりしなさい」と言うことで子どもの発達を導いているというのです。それは幼児期を通して続いていき、「指を動かして作業しなさい」「体をうまく使って掃除をしなさい」「数を数え計算してみなさい」「お友達とグループを作って遊びなさい」と「内なる教師」または自然の生命の力に導かれて、子どもはその時期に必要な発達課題に本能的に突き動かされるような形になります。 そのことに取り組むことが面白くてたまらず繰り返し繰り返し行います。それは、誰が教えるわけでもないのに卵からかえったウミガメの赤ちゃんがひとりでに海に入っていくように、神秘的な生命の力とも言えるでしょう。


 ところが、そのような素晴らしい力があっても、それを発揮できない環境や状況にある時、そのエネルギーは別な方向へ流れて行ってしまいます。その結果、冒頭に触れたような「こどもといえば」というイメージそのものになってしまうのです。しかし、このようなポテンシャルを十分に発揮できない状態は大人の私たちにもあてはまることであり、現代に生きる人間にとって至極当然のことでもあります。しかし、そのような中で大人が子どもに、その時期にあった適切な環境を整えることで、一つの作業に対して全人格を傾注するような場面を作ることができることがあります。その時、その子どもは「内なる教師」と環境が一致し、その子の「生命本来の魂」が求めていることへ向かっていきます。それは自由に自分らしい発達をしていくことでもあり、子どもの心は大きな喜びに溢れるのです。


 このような状態になると、子どもは「真の姿」を見せるのだそうです。子どもは満ち足りた表情で使い終わった道具はきれいに元に戻し、落ち着いた静かな環境と秩序を自分から求めるといいます。こうした感覚は大人の私たちにも共感できるものがあるでしょう。例えば近年Mindfulnessと呼ばれているものがそうです。
 忙しない現実の日々にあっても、こうした満たされて整然とした精神状態になれる瞬間をより多く持てることこそ、人生の醍醐味かもしれません。これを目指して子どもの生命本来の可能性に働きかけることが「Aid to life 生命への援助」と呼ばれるモンテッソーリの大切な理念の一つです。


Frontierkids Global School 施設長 眞島拓也

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