「未知への入口」身近な生き物に目を向けてみる

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「未知への入口」身近な生き物に目を向けてみる

 黄色と黒のコントラストが美しい、身近な昆虫「アゲハ蝶(ナミアゲハ)」。少なくとも数百年前から日本に生息していたと考えられており、日本人にとって古くから馴染のある存在です。そんなナミアゲハの“秘密”をご紹介します。

 

 ナミアゲハが産卵するのはミカンやレモン、サンショウなどの柑橘系の植物です。(意外に思えますが、サンショウもミカン科の植物です。)産まれた幼虫は、その葉を食べて成長します。ナミアゲハの幼虫と言えば、緑色のイモムシを連想する方も多いかと思いますが、産まれてから数回脱皮するまでは白と黒のまだら模様です。これは鳥の糞に擬態することで天敵から身を守るためと考えられています。終齢幼虫(次の脱皮で蛹になる幼虫)になると、お馴染みの緑色の姿になります。大きな目玉のような模様は「眼状紋(がんじょうもん)」と呼ばれ、蛇に擬態していると考えられています。また、天敵に襲われそうになるとオレンジ色のツノのようなものを出して威嚇します。鼻を突くようなすっぱい臭いがするので「臭角(しゅうかく)」と呼ばれており、幼虫が食してきた柑橘系の葉の成分が、自らの命を守るために役立てられているのです。(臭いの成分は食草に関係なく体内で生成されているという説もあります。)最後の脱皮を終えて蛹になると、茶色や緑色に変化することで周囲の環境に擬態します。周りの色や温度、湿度、光の量などの影響を受け変色しているようです。そして成虫になり交尾をし、産卵します。このようにナミアゲハの一生には、次の世代へ命を繋ぐための様々な生存戦略が散りばめられているのです。

 

コラム写真  ナミアゲハは年に2~4回世代交代します。(地域や気候により異なります。)蛹で越冬して春に羽化する「春型」と、その次の世代であり、ひと夏でその命を終える「夏型」に分けられます。そして夏型の産んだ卵から幼虫が産まれ、蛹になって越冬し、翌年の春型のチョウに なるのです。二つ型を比べてみると、春型は小さく、夏型は大きい傾向があります。また色味は春型の方が黄色い部分の面積が大きく、夏型は黒い部分の面積が大きいです。光の量が多い夏には、黒色色素の生成が促進されるため夏型の方が色が濃くなる傾向にあるようです。

 

 昨年、とある昆虫イベントでナミアゲハに関する新たな”秘密”を知る機会がありました。なんと、ナミアゲハの成虫は前脚の先端で味を感じることができ、その脚で葉を叩く「ドラミング」をすることで農薬の有無を知り、幼虫が食べるのに安全な葉かどうかを判断してから産卵しているというのです。私たちにとって身近なナミアゲハにも、他の生き物にも、まだまだ私達人類の知らない”秘密”がたくさんあると思うとロマンを感じますね。

 

 先日、昆虫学者の須田真一さんがとある講演で「東京ほどの大都市で、これほど生き物が豊かな場所は、世界的にも他に無い。」と仰っていました。多様な生き物が暮らしている、この東京に私たちも暮らしています。様々な生き物の秘密を知り、その面白さに気付くことで、子どもたちが生き物に愛情を持ち、一つ一つの命を大切に思えるような心が育まれていくと良いなと願っています。

 

フロンティアキッズ新宿

施設長 石田 拓也