「わからない」を大切に

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「わからない」を大切に

 「答えは問いの不幸である」ーそんな言葉を、フランスの哲学者ブランショが残しています。

 

 問いに出会うと、わたしたちはすぐに答えを求めたくなります。「どうしたの?」「なんでそうした の?」「これは何?」と、子どもたちにも無意識に問いを投げかけてしまいます。 しかし、問いにすぐ答えが与えられてしまうことで、本来その問いがもっていた広がり深ま りが失われてしまうことがあります。 答えを急がず、問いのままそこにいられること──それは、タイパコスパという言葉が登 場するような今の時代では、とても難しく、でもとても大切な姿勢なのかもしれません。

 

 例えばお散歩中の公園の木の下で、子どもたちはじっとしゃがみこんで、地面を見つめたり、 掘ったりして、何かをずっと探している様子がよくあります。 でも、こちらが「何を探してるの?」と聞くと、「わかんない」という返事が返ってくることも。

 

 でもその「わかんない」は、決して困っている様子ではなくて、むしろそのわからなさを楽しん でいるように見えます。 イギリスの詩人ジョン・キーツは、「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」とい う言葉を残しました。直訳すれば「負の能力」ですが、不確かさや曖昧さの中にとどまり、すぐに 答えを求めずにいられる力、事実や理由をせっかちに求めず、不確実さ・不思議さの中にいられ る能力、とされています。 保育という仕事は、このわからなさの中にいる力を、子どもたちと共に育てていくことでもあ るのだと感じます。 これは決して問題を先延ばしにしているわけではなく、むしろ思考や探求のために必要な時間 を確保することだと考えます。 子どもが何かを知りたがった時に、すぐに答えを与えるのではなく、問いを深めたり、一緒に考 えたりすることで、子どもの思考力や想像力を育てていけるのではないでしょうか。

 

 例えば、子どもに「どうしてお月様はついてくるの?」と聞かれたときに、「それは目の錯覚ー」と 即答するのではなく、「不思議だね、どうしてだろうね」と一緒に考えることで、子どもが未知の ものに対する耐性や想像力を伸ばしていくことにつながるかもしれません。

 

 即答することは一見とても親切で合理的なようですが、子どもから「考え続けることの価値」や 「学びを深める機会」を奪ってしまう可能性があります。

 

 レイチェル・カーソンの唱えた「センス・オブ・ワンダー」(世界の不思議さ、美しさに心をひらく感 性)子どもたちは日々、そのセンス・オブ・ワンダーを全身で生きています。 大人が見過ごしてしまうような何気ない場所に、子どもは問いを見つけ、ふしぎを感じ、世 界と出会っています。わたしたち大人も、すぐに意味を与えたり、言葉で説明したりせずに、た だそっとその隣にいること。「わからないね」「どうだろうね」と言いながら、ネガティブケイパビ リティの力をもって、子どもたちの感じているに寄り添えることができたら、子どもにとっ ても、大人にとっても、とても豊かな時間になるように思います。

 

フロンティアキッズ上馬

施設長 伊藤由子